★居場所★
★。、:*:。.:*:・'゜☆

第15話

「ほんとうなんだから、いつもいるわけじゃないのよ。でも、法要とか、嫁としての仕事がある時には、必ず出てくるの。私は、話をすることもできるんだから。広縁を拭いている友紀子さんの姿を初めて見た時は、私も腰を抜かしそうになったわよ。事故があって一年後のことだった。その話はあなたにもしたでしょう? 村の集まりを年に一度うちでする日だったから、嫁としての務めを果たしにきてくれたんだと思ったのよ。私が話しかけたら、ちゃんと返事をしてくれたわ。友紀子さんの言葉が胸に響いてきたと言ったほうがいいわね。信じなくてもいいわ。信じたくないんでしょう。自分の不注意で死なせておいて、さっさと再婚して、この家も捨てて、いい気なもんだわ。宏之より、死んでからも嫁の務めを果たそうとして、ここに出てくれる友紀子さんのほうが、どれだけかわいいかしれないわ」
 姑の言葉を聞いているうちに、胸の奥でもやもやしたものがだんだん明確になってきた。
 友紀子は、おそるおそる、自分の姿をガラス戸に映して見た。
 左の頭部がない自分の姿がそこにあった。
そうだった。思い出したくなかったけれど、友紀子は、あの事故で、頭をえぐられて死んだのだ。運転していた車が対向車線に入り込んでいたことに気付いた宏之が、トラックとの衝突をさけようと、とっさに自分をかばうほうにハンドルを切った。そのために、助手席にいた友紀子だけが犠牲になった。
宏之は、嫌な事故のことを忘れたいと、こちらの会社を辞め、東京へ引っ越したのだ。そして、すぐに千香と再婚したのだ。もしかしたら、宏之と千香は、以前からの知り合いだったのかもしれない。
頻繁にあった東京への出張も、千香と会うためだったのだろうか……。
いろいろなことを思い出したが、またすぐに忘れてしまうのだろう。そして、また、ここへ来てしまうに違いない。
友紀子の居場所はここしかない。
あんなに恐れていた姑が、今では唯一の味方になった。友紀子の姿が見えるのは、姑だけなのだ。
次の法要が来たら、友紀子はまた、欠けた頭を抱えて、広縁でうずくまるのだろう……。

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