★居場所★
★。、:*:。.:*:・'゜☆

第10話

友紀子は、庭に面した広縁にうずくまった。交通事故に遭ってから、一層頭痛がひどくなった気がする。
 後ろから姑の足袋をする音が近づいてきた。
 そうだ。今日は、舅の十七回忌の法要だ。嫁の私が、こんなところで油を売っているわけにはいかない。
「友紀子さん……。頭が痛いの?」
 遠慮がちな姑の声がした。
 友紀子は振り向いて、こくりと頷いた。
「ゆっくり休んでちょうだいね……」
 いつになく優しい言葉が返ってきた。それだけで、頭痛が少し和らいだ気がした。
 大広間では、相変わらず近所の主婦たちが集まって、手伝いをしている。友紀子は、美江の隣に行き、並べられている漆の膳を拭いた。
「まったく、法事の度に呼び出されて、うんざりだわ」
 美江がぶつぶつと口の中で繰り返している。もうやらないと言いながらも、美江は呼び出されると真っ先に来ては、文句を言いながらもよく動いている。彼女は、自分の代になっても、やはりこうして手伝いにくるに違いない。
「すみません」
 友紀子は小さな声で謝った。
 美江は友紀子が拭いている膳を取り上げて、また黙々と拭き始めた。ここの嫁である友紀子のことも気に入らないのだろう。
 友紀子は美江に頭を下げてから、台所のほうへ行った。
「これ、いいでしょう? かわいかったから、思わず買っちゃいました」
 台所では、あか抜けた化粧をした女が、手に持っている一輪挿しを姑に見せていた。ガラスの凝った細工のものだ。姑も、いいわねえと、にこやかに相槌をうっている。
 しかし、友紀子の視線に気付くと、姑は、彼女を放って、友紀子のそばに来た。

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