★居場所★
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第11話

「頭が痛いんでしょう? 部屋で休んでいなさい。人手は足りているから。無理しないで」
 姑が周りに聞こえないほどの小さな声で言った。若い女がいぶかしげにこちらを見ている。白いエプロンをしているから、手伝いに来ているのだろうが、シルクっぽい生地でたっぷりとレースがついたそれは、水仕事を拒否しているように思えた。折れてしまいそうなほど長く伸ばした爪にも白いマニキュアが塗られている。あれでは料理も作れないだろう。
「あの人は?」
 友紀子は姑に訊ねた。
「彼女のことは気にしなくていいから、ここのお嫁さんは、あなたなんだから」
 姑が意味のわからないことを口にした。何を気にするなと言っているのだろうか。この家の嫁は友紀子以外にいるはずがない。
 友紀子は、二階の自分達の部屋で休む気にもならず、台所の隅でみんなの動きを見ていた。
「千香ちゃん、そのお菓子の包みは、ご住職にお渡たしするものだからね。わかるようにしておいてちょうだい」
 姑が若い女に向かって言った。彼女は千香という名前らしい。姑は、友紀子には、友紀ちゃんなどという親しげな呼び方をしたことがない。彼女は、きっと、親戚の誰かなのだろう。
千香は、友紀子のことを無視するつもりらしく、友紀子が見つめても、素知らぬ顔をした。そのかわり、姑の指示に従って、大げさなほど動き回わっている。
 友紀子も頭痛さえなかったら、あのくらいの仕事は出来るのだ。頭をえぐられるような痛みがあるから、思うように動けないし、考えもまとまらない。大事な時に限って起こる頭痛だから、姑が嫌うのも無理はなかった。
 法要が始まる前に、千香は黒いワンピースに着替えていた。裏方の手伝いだけではなく、法要にも出席するつもりらしい。
僧侶が仏間に入る時間になっても、宏之の姿は見えなかった。まだ仕事から戻っていないのだろうか。今日の宏之の予定を思い出そうとすると、頭痛がひどくなり、結局、思い出すことができなかった。

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