★居場所★
★。、:*:。.:*:・'゜☆

第5話

法要の始まる時間に合わせて、宏之は仕事から戻ってきた。親戚たちも集まり、仏間に厳かな空気が流れ始めた。
僧侶の高らかな読経が頭に響き、帯で締め付けられた胸元から、苦いものがこみあげてくる。
 隣に座っている宏之が、友紀子の様子を気にして、心配そうにチラチラと見ている。その視線に気付いて、姑が眉間にシワを寄せた。
 僧侶の経が終わった頃には、手伝いの近所の主婦たちが、会食の料理を膳の上に並べ終わっていた。
大広間にそれらの膳を運び終わると、親戚たちのにぎやかな話し声が台所まで響いてきた。友紀子は燗をした酒を運び、親戚の男たちに酌をして回った。
 これが終われば、部屋に戻ってゆっくり休める。布団の上で横になっている自分を想像しながら、友紀子は最後まで帯を緩めなかった。
「ああ、いやだ」
 にこやかに客を見送ったあと、姑が発した言葉だった。
友紀子は、頭をさらに締め付けられた気がした。ほっとしている暇などなかった。
「何人に言われたと思う? お宅の嫁さん、どっか悪いんじゃないか。跡取りはちゃんとできるのかってね。まったく何か行事があるたびに青い顔をしてるんだから、みんながそう思うのも無理ないわね」
 日頃、丁寧な物言いしかしない姑が、乱暴な口調で言った。よほど腹が立ったのだろう。
「友紀子は気分が悪いのに最後まで頑張ったんだ。もう休ませるよ」
 宏之が助け船を出してくれた。
確かにもう限界だった。立っているだけでやっとだ。吐き気が強くなり、額からは脂汗が出ている。
友紀子は姑に頭を下げ、そのまま自分たちの部屋に入った。
 帯を解きながら、涙が出た。自分がなさけない。元気でしゃきしゃきと動けたら、姑が親戚や周りの人たちからいやなことを言われずに済むのだ。
それでも、行事があるたびに、ひどい頭痛に悩まされるのは事実だった。病院にも行ってみた。ストレス性のものだろう、と言われた。人は、精神的なもので、味覚もなくすし、胃に穴を開けることも、動けないほどの激痛を感じることも、恐ろしい幻覚を見ることもあるのだという。
もう少し肩の力を抜けるといいのですけどね、と医者に言われたが、それは友紀子にとってなによりも難しいことだった。
 姑は、友紀子が伝えた診察の結果も気に入らなかったようだ。精神的なものが原因だったら、ほんとうの病気ではないと言った。それ以来、友紀子の頭痛をますます目の敵にしている。
 着物を衣紋掛けに掛けて、押入から布団を引きずりおろす。
 その上に横になってエビのように体を丸めた。
――誰かに呪われているんじゃないかしら――
 再び、姑の声が蘇る。
 友紀子を呪う人間がいるとしたら誰だろうか……。

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