★居場所★
★。、:*:。.:*:・'゜☆

第6話

翌朝も頭痛は続いていたが、この程度の痛みは日常的なものになっている。
横で宏之が気持ちよさそうに寝ている。起こさないように気をつけながら、着替えて台所に向かった。
姑はまだ起きていなかった。昨日の疲れが残っているのだろう。広間も台所も、すっかり片付いている。近所の人たちに手伝ってもらったとはいえ、取り仕切っているのは姑だ。最後まで気が抜けずに疲れ切ったことだろう。
 友紀子は、時計に目をやってから、表に出た。 
魚売りのおばさんが、毎朝、七時頃に家の前を通るので、待ちかまえるようにして、アジの開きを三枚買った。
「毎朝大変だね。知寿子さんも、いいお嫁さんが来て、楽になっただろうね」
 行商のおばさんは、姑が嫁として嫁いできた時から知っているという。
「知寿子さんも頑張り屋さんだったからね。あんたはちょっと似ているところがあるね」
 おばさんは、アジを包んだ新聞紙を差し出した。
自分と姑が似ているというのか。友紀子も将来、姑のようになるのだろうか……。
二十年もこの地で暮らしていたら、もしかしたら、そうなるのかもしれない。
 アジを受け取り、おばさんが次の家に向かうのを見送る。
 背中が曲がっているのは、重いリヤカーを引き続けたからだろうか。彼女は、六十年間、行商を続けていると言っていた。どんな天候の日も、毎朝四時に起きて働いているという。毎朝四時。六十年間。その歳月を聞いただけで、彼女の日々が楽なものではなかったことがうかがえる。
「友紀子さんは楽でいいわ。私の頃とは大違い」
姑がたびたび口にする言葉だ。
それでも、姑は文句ひとつ言わずにやってきたのだ。昔の嫁の苦労に比べたら、友紀子が毎日している、屋敷の掃除も、庭の手入れも、食事の支度も、たいしたことではないのだろう。
生活に不自由があるわけではないし、姑の言うように楽をしているのだと思う。
そう思うのだが、つい、真由美や他の友人たちと比べてしまうのだ。彼女たちが自分と同じような生活をしているのなら、生まれない不満なのだろう。結局、誰かと比べて、自分が遊んでいないとか、気を遣いながら生活しているとか、その程度の不満なのだ。誰かと比較しないと、物事の基準が計れない情けない人間なのだ。
考えすぎないようにしよう。優しい夫がいることを忘れないようにしなければならない。
宏之は、友紀子だけを愛していると言ってくれた。その言葉に嘘はないはずだ。
東京への出張が頻繁にあることも、夜中に携帯電話が振動するたびに、宏之がこっそり布団から抜け出すことも、心配はしていない。全ては仕事なのだから……。

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