★居場所★
★。、:*:。.:*:・'゜☆

第7話

「今日の宏之の予定はどうなっているのかしら」
 朝食の支度をしていると、姑が手元を覗き込むようにして言った。
「おはようございます。今日の予定は、まだ聞いていませんが」
「心遣いだけいただいて、法要に欠席された方がいるから、そのお返しを買いに行かないとね。宏之に言っておいてちょうだい」
 姑は、友紀子の返事を待たずに仏間に向かっている。
「わかりました」
 友紀子は姑の背中に向かって言った。
姑は、頼み事があっても、宏之に言わずに友紀子に言う。友紀子に言ったことは、必ず実現するからだろう。宏之がいやがっても、友紀子が頼み込んで、姑の機嫌を損ねないようにしている。そのことに気付いたのか、姑は宏之への頼み事を友紀子に言うようになっていた。
「起きて。朝ごはんの支度ができたわよ。今日はお義母さんが買物に連れて行ってほしいみたい。法要にこられなかった方のために何かお送りしたいそうだから」
 自分たちの部屋に入り、宏之の布団を揺すりながら言った。
「なんだ、またか……」
 宏之は目をこすっている。
「今日は特別だから。そういう品は、早く手配したいでしょうし」
「先週も、法要の準備があって忙しいとか言われて、映画に行けなかったじゃないか。お袋は、俺たちがいない時も、どうにかひとりでやっていたんだよ。こっちに戻った途端、運転手代わりに使われて、たまらないよ」
 宏之は起きあがってパジャマを脱いだ。
「少しは気を利かせてくれてもいいと思わないか」
 宏之は服に着替えながら、ぶつぶつ文句を言い続けている。しかし、その言葉を直接母親に言うことはない。
「お願いだから、一緒にデパートに行って。法事のお返しをするのは大切なことだもの。それを断って、ふたりで映画に行くことなんてできない」
 いつのもように宏之に頼み込んだ。
「わかったよ。でも、あの映画は来週までだから、今度何か言われても断るんだよ。はっきり言えばいいんだから」
 そう言い残して、宏之は洗面所に向かった。
脱ぎ捨てたパジャマを片付けていると、布団の中で携帯電話の振動音が聞こえた。
友紀子は、外出することがないので、携帯電話は持っていないが、宏之は、家の中でも、いつも携帯は側に置いてマナーモードにしている。
 振動し続けている携帯電話を布団から出し、洗面所に運んでから、友紀子は階下へ降りた。

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