★居場所★
★。、:*:。.:*:・'゜☆

第8話

「今日はデパートでいいんですよね。宏之さん、大丈夫だそうです」
 友紀子は、仏壇の掃除をしている姑に声をかけた。
「贈答品専門の店より、デパートのほうがいいでしょう。あそこは包装紙も上品でいいし、配送も間違いないですからね」
 姑は機嫌のいい顔になっている。
 姑と宏之ふたりででかけてくれたら、友紀子も気が休まる時間が持てるのだが、これも嫁としての大事な仕事なのだからと言って、姑は友紀子も一緒に行くように言う。宏之とふたりで外出したら、間が持たないのかもしれない。
姑は、今朝の味噌汁の味が気に入らなかったようで、朝食の時間中、ずっと小言を言っていた。
友紀子は、頷きながら、黙って耳を傾けていた。
食事が終わって、友紀子は食器を洗い、デパートに行く支度をするために自分達の部屋に戻った。
「ほんとによく辛抱してるよな。お袋とうまく付き合っていけるのは、友紀子しかいないと思うよ」
 友紀子の顔を見るなり、宏之が言った。
 この言葉が聞けるから、友紀子はいろいろなことが我慢できるのだ。友紀子にしか務まらないと、宏之はことあるごとに言ってくれる。確かに、友人たちを思い出しても、この環境で、おとなしく姑の言うことに従うような女性はいなかった。
 友紀子は黙って宏之を見つめた。宏之が友紀子の細い体を抱きしめ、そのままセーターの裾から手を入れてきた。小さな胸が宏之の手の中で期待している。このまま宏之と共に布団の上に転がることができたら、どんなに幸せだろうと思う。
「お義母さんが待っているから……」
 友紀子は気持と裏腹に宏之の腕を解き、着替えの服を出した。
 支度が整ったので、ふたりで揃って階下へ降りる。
「二階に上がると、いつまでも降りてこないんだから」
 姑は、玄関で待っていた。すでによそ行きの着物に着替えて、バッグも手に持っている。
友紀子が服を着替えるのと同じ早さで、姑は着物を着て帯をつける。いかにも着慣れた感じで、堅すぎない着方だ。着くずしているのとも違うその着付けは、友紀子が初めて目にするものだったし、その着こなしが友紀子は好きだった。

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